2018年、新年のご挨拶と、鶴の白生地の誂え染め
2018年、明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
戌年。
ということで、誠にもって恐縮ですが、
編集人の愛犬に働いてもらい、
年賀写真撮りをしました。
12年に1度くらいは
働いてもらおうということです(笑)。
ご挨拶に着たきものは、
昨年、デッドストックの白生地から
染めた洒落紋付きの無地です。
白生地から染める自分のきもの。
無地染めなら、そこまでハードルが高くなく、
自分だけの一枚を作ることができます。
参考までに、このきものについてちょっとお話しますね。
ちょっといいながら、長めです(笑)。
実はものすごい、あり得ないミスをしたきものなのです。(^_^;)
きものは、元は婚礼用の緞子の白生地。
先に説明の通り、デッドストックのものと遭遇しました。
いまはもうない、「聚楽」という会社の、
どっしりした、そして緞子ならではの、
しっとり、ヌメリとしたテクスチャーがあります。
地紋が、ウフフフの「鶴」!
鶴です。鶴。
言葉だけで聞くと、鶴の地紋の白生地。
自分用に染めようとは思いませんよね(笑)。
実際、婚礼用であって、オバちゃんようではありません(笑)。
でも、なんていうのでしょうか。
いまだから、いまだから、
この“鶴”のクラシックさが、
新鮮でおしゃれに感じるのです。
自分で言うのもナンですが(笑)。
しかし、自白すると(笑)、
これは怪我の功名というヤツです。
実は、手元にあったデッドストックの白生地は
地紋が2種類ありました。
孔雀と、鶴。
孔雀は鶴に比べるとかなり大きな柄になります。
前身頃にその孔雀が来るように仕立てたら、
カッコいいだろうなと、迷わず、
選んだのは、孔雀でした。
先には、いかにも偉そうに、
クラシックでおしゃれ、と言いましたが、
さすがに“婚礼の鶴”を
即、選ぼうとは思いませんでした、普通です(笑)。
そうなんです、ワタクシは
“鶴”ではなく、“孔雀”を選んだ!
…………………はずだったのに。
「では、この色でお願いしますー♪」と、
色を決めて、染め屋さんに白生地を手渡しました。
そして、仕立て上がってきました。
きものが入っている、たとう紙の白さ、真新しさ。いいですねー。
ほんと、この瞬間がワクワクしますよね。
開けて、ごたいめーん! したら、
は…………………????(最初、意味がわからず)
え? え!? え、え、えー!?(状況を分析)
はあああああああーーーっ!?!?!?(状況を把握)
頼んだ白生地、孔雀のつもりが………間違えて鶴を出していた…のです。orz
この後は早送りします(笑)。
が、びっくりしたのは最初だけで、
すぐに立ち直りました(笑)。
鶴が孔雀に勝利していたのです。ステキな出来だったのです。
ほんとうに。やせ我慢ではなく(笑)。
これが、まさに怪我の功名。
孔雀より柄が小さめに(といってもそれなりの大きさです)
入っていた鶴は、緞子の無地染めのなかで、
くっきり浮かんで、とてもとても、
ある意味、斬新とも言える、
エッジが効いた効果が出ていたのです。
しかも、細身で小柄はワタクシには、
これくらいの大きさの柄が結果オーライだったという、
正の(負じゃなく)副産物が重なり、
かなり自慢の一枚になったのでした。
そして、洒落紋は繍い紋。
「月刊アレコレ」のマークの“筆紋”。
筆紋は、載っている紋帳もありますが、
乗っていない紋帳も多い珍しい紋です。
8本の筆が放射状に並んだ、
一見、船の舵にも見えるかたちです。
筆ということで、=ペン。
紙媒体、編集、メディアのシンボルです。
そして、舵にみえるかたちは、
きものの未来へ漕ぎ出す意、
その未来への指針となる意、
が、込められています。
ちょっと説明が前後しますが、
この無地はKICCA(きものカラーコーディネーター協会)の
周年パーティで着るために誂えたものです。
ワタクシはKICCAの代表理事の能口先生とともに
理事を努めています。
なので、セミフォーマル風味を出しつつ、
パーティに合わせて「色」にこだわり、
ありきたりではなく、おしゃれだなと
思える仕上がりにしたかったのです。
そのためのポイントが、
- 洒落紋
- そして、袂を長めにすることです。
きものがまだ普段着で生活着だった戦前までは、
普段着だからこそ、お出かけ着との差を付けていました。
昔の言い方をすると「よそいき」ですね。
それぞれの暮らしのレベルなりですが、
絹物、柔らかもの、上質な生地など、素材の違いと、
もう一つは、裄や袂がやや長めというものでした。
袖丈は好みや身長で多少の違いがありますが、
襦袢もよそいき用に合わせて用意しています。
しかし、きものを着ることが少なくなった現代では
1枚の襦袢ですべてのきものに合わせられるように、
袖丈を同じにするようになっています。
いま標準となっている1尺3寸(約49cm)は
普段着に合わせるというより、よそ行きに合わせての袖丈です。
たまに、おばあちゃまの箪笥に入っている、
普段着的な織物(紬や木綿やウール)で、
袂が短か目のもの、ありますよね。
身長の違いもありますが、
普段着だからという理由が大きいと思います。
いまは襦袢まで用意することは少なく、
1枚の襦袢で、すべてのきものにあわせられるように、
袂を同じ長さに揃えるようになりました。
最近はよそいきというより、背の高いかたが多いので、
バランスがいいように、1尺3寸より長めの袂を
勧められることがあると思います。
私も袖丈はすべて1尺3寸です。
小柄なのでもう少し短くてもいいのですが、
襦袢が不便なので揃えています。
その代わり、普段着は袖の丸みを大きめにしています。
なぜか?
袖の丸みに関しては、別の機会にお話したいと思いますが、
この丸みにまた意味があるんです。(^^)
話を写真のきものの、「袖丈長め」に戻しますと、
フォーマル感というより、ちょっとおめかし感を割増にしたかったので、
袖丈を1尺5寸(約56.7cm)にしました。
しかし、問題が。
そうです。襦袢です。
そこで、今回はきものに合わせて、八掛けと
“うそつき袖” を一緒に袖も染めてもらい、
直接きものに取り付けてもらいました。
白生地がたっぷりの四丈(よじょう)ものだったので、
八掛けを染めて、かつ長め袖も足りました。
(※四丈(よじょう)もの=共八掛けが取れる要尺。現在は四丈ものとはいっても四丈以上長さがあるものが多い)
襦袢は筒袖の半襦袢を着用、下は柄物の裾よけです。
アンテイークが好きなかたは、襦袢の袖丈に悩むと思います。
器用なかたなら、ご自分で取り付けることもできそうです。
ワタクシはできませんので、プロに頼みますけど(笑)。
こうして、唯一無二の、自分の無地が完成したのです。
ところで、袂の長さに年代は関係ないの?
という疑問があるかと思います。
長い袂は未婚者の印で、
既婚者は「袖を振る」ことをやめるために、袖を留める。
と言われています。
「揺れる袂」は女心の象徴として捉えられているからです。
袂には魂が入っているんですね。
しかし、ここ5~6年は、大人の振袖を楽しむ人も結構います。
正式な席ではなく、おしゃれや楽しみとして着る振袖です。
着るものがファッションと考えたら、全然問題ないと思っています。
似合うかに合わないかというのは別として(笑)。
袂の長さだけでなく、色柄の問題もありますからね。
ワタクシとしては、自分にまあまあいい「長さ」の限界を(笑)、
1尺5寸としたというわけです。
最後に。
白生地のデッドストックは掘り出し物があります。
いまでは織れない昭和のいい生地があるからです。
今回の緞子の生地も、ほんとうにしっかりしたいい生地でした。
シミやカビが出ていなければ、そして濃いめの色に染めるなら、
そのまま使えることが多いです。
薄い色だと、絹特有の黄ばみが出ていると、色に影響がでますから、
お店のかたと相談してください。
デメリットは、古いものは反幅が狭いこと。
まあまあ、8割方は大丈夫だと思いますが、
165cm以上のかただと、こちらも相談してくださいね。
本日も、新年のごあいさつと言いながら、
長々とした白生地の話になりました。
改めまして、本年もよろしくお願いします。
こんな編集人が作っている月刊アレコレは
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創刊13年目になる月刊アレコレのスローガンは
「袂に知恵と工夫、自分サイズのきものをたのしもう」
着る人が作る雑誌です。